【毎週名馬】1991年アメリカジョッキークラブカップ・メジロモントレー

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直系の孫に当たるモーリスの大活躍により近年再び脚光を浴びたメジロモントレー。今や関東の重鎮となった横山典弘騎手の勃興期を語る上でメジロライアンと共に欠かせない名前である。
(「週刊競馬ブック1991年2月11日号」表紙より引用)

 美浦の大御所・横山典弘も今年の2月で52歳になる。年間トータルの騎乗数自体は減少傾向だが、去る2019年も中央重賞5勝をマークし、その存在感は未だ絶大なものがある。

 五十路を越えた今でこそ、その一挙一動に対して他の騎手が神経を尖らせるほどの重みを携えたように思える横山。しかし、かつては「ノリが吹いた馬は消し」という格言があったくらいで、騎手・横山典弘のイメージというものはむしろ軽い部類であったように記憶している。パブリックイメージが一変する契機になったのは、一般には「砂の女王」ホクトベガの死を巡るマスコミ報道であったとよく言われる。要するに、この報道の過熱によりマスコミ不信が極まって、テレビで見る彼は笑顔に乏しくなり、悪く言えばつっけんどんな態度を取るようになった……という説が世間では根強いわけだ。真偽のほどは定かでないが、ともかく今の横山の印象は「油断のならない初老騎手」といったところだろうか。彼の2人の息子が中央で騎手デビューしてから、そんな印象は薄まるどころかさらに色濃くなっている。今の横山典弘は重くて鋭くて恐い。背後を取られたとしたら、たちまち一刀のもとに斬り伏せられてしまうだろう。

 横山が騎手として関東で地位を固める上で重要な位置を占めた馬と言えば、いの一番に名が挙がるのはメジロライアンだろう。だが、決して忘れてはいけない馬がライアンの1歳上の世代に存在する。重賞通算4勝、横山の手綱でうち3勝を挙げたメジロモントレーである。

 1986年生まれのモガミ産駒であったメジロモントレーは、2歳(新馬齢表記)の8月に早くも初勝利を挙げたものの、若い頃は折り合いに不安を抱えていたこともあってもっぱら着順に人気が先行した。調教の動きは抜群でも、実戦にはなかなか結びつかない。気性の激しさで有名だったモガミの娘らしいムラっ気のきつさを爆発力に変えたのは、当時二十歳そこそこの若手騎手の一人であった横山典弘だった。1990年1月の金杯(東)で重賞2勝目をマークしたメジロモントレーの背中には、前年春以来のコンビとなる横山の姿があった。中山競馬場の短い直線でギリギリまで仕掛けを我慢して、最後の最後で末脚を爆発させるという豪快なスタイル。若き日の横山はこれを見事に確立してみせた。

 1990年当時はヴィクトリアマイルなど存在せず、古牝馬最大の目標になり得るエリザベス女王杯もまだ4歳以上の牝馬には開放されていなかった。そういう時代だからこそ、牡馬相手に髪を振り乱しながら勝負を挑む「女傑」がより輝きを放ったと言えなくもない。翌1991年1月のアメリカジョッキークラブCは、そんなメジロモントレーの生涯の集大成たるレースであった。

 増沢末夫が駆るハワイアンコーラルが淡々と逃げを打ち、1番人気の上がり馬パソドラードが番手で追い掛ける展開。アルゼンチン共和国杯を勝った勢いで臨んだメジロモントレーは、いつものように後方待機の策を選んだ。やがて4コーナーを過ぎると、馬群は横一線に。メジロモントレーと横山典弘は一瞬の間隙を突いて馬群を縫って抜け出しを図ると、最後は同い年の牡馬カリブソングとの追い比べを制した。レース後には「今日のように瞬発力を活かす競馬なら力は上だから順当勝ち」「一瞬のキレはメジロライアンと比べてもまったくヒケは取らない」と、気鋭の横山典弘の語気が躍った。

 こうしてアメリカジョッキークラブCを快勝したメジロモントレーには、勇躍春天出走のプランが持ち上がったが、まもなく熱発などで体調を崩してしまっため実現はしなかった。そして彼女は秋初戦に設定された毎日王冠12着の後再び休養に入り、現役を引退した。繁殖牝馬としては3番仔のメジロアトラスが中堅レベルの活躍を見せたぐらいで、全体的には成功したと言い難かった。やがて2013年2月に新表記27歳で死亡した彼女の名前は、同年10月にデビューした孫のモーリスの活躍により再び世間に思い起こされることになる。

 若い時期にはメジロライアンやメジロモントレーで強烈な追い込みを見せた横山典弘も、近年は意表を突く逃げ切り、あるいは好位付けからの直線抜け出しという場面が特に重賞では増えたように思える。今回彼がアメリカジョッキークラブCで騎乗するミッキースワローは、慢性的なスタート難もあって後方から競馬を進めるパターンの多い馬だが、デスペラードやアンビシャスといった差し追い込み馬を突如先行させて重賞タイトルを手にした彼のこと、全く計算外となる前付けの手も頭に入れなくてはならないかも知れない。まして今回はスローペースが見込めるのだから、なおさらだ。我々は決して横山典弘に隙を見せてはならない。

レース結果

2020年1月26日中山競馬場11R
アメリカジョッキークラブC(G2)

1着11番ブラストワンピース 川田将雅
2着10番ステイフーリッシュ C.ルメール
3着2番ラストドラフト O.マーフィー
本命馬4着3番ミッキースワロー 横山典弘

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