【毎週名馬】2000年府中牝馬ステークス・トゥザヴィクトリー

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マイペースの逃げにより他馬を完封したトゥザヴィクトリーだったが、G1を勝つためにはさらなるモデルチェンジが要求された。
(月刊「サラブレ」2000年12月号13Pより引用)

 よく知られている話だが、種牡馬ノーザンテースト導入以前の社台グループは現在のように盤石の立場であったとは言えず、その生産馬たちも「質より量」といった趣があった。1973年には西山牧場によって生産者リーディングの座を奪われたことも有名である。一介の古牝馬重賞に過ぎなかった府中牝馬S(1991年以前は「牝馬東京タイムズ杯」の名称で施行)を社台ファームが1977年、1978年と2連覇した事実は、当時の社台ファームの生産者としての性格を物語っているような気がする。その当時、重賞を一牧場が連覇するようなケースは決して多くなかったのだから、なおさらだ。グレード制施行以降もこの傾向は変化なく、1984年~1991年の間に社台ファームは同重賞を4勝している。

 1994年、創業者である吉田善哉氏が前年死去したことに伴い、後に遺された社台グループは善哉氏の3人の息子によって再編された。その結果、社台ファーム千歳は長男の照哉氏が継いで主家として「社台ファーム」に、社台ファーム早来は次男の勝己氏が継承して「ノーザンファーム」と改名されている。以後の2牧場の活躍は読者の皆さんがご存知の通り。特にノーザンファームは生産者リーディングでトップとなった2011年頃を境にして主家を完全に凌駕し、この日本の競馬の上に完全なる王国を築くに至っている。

 再編後のノーザンファームは府中牝馬Sを4勝しており、対する社台ファームは7勝を挙げている(なお、社台グループに属する白老ファームの生産馬も1勝している)。ところがノーザンファームが生産した府中牝馬Sの勝ち馬4頭のうち、その後G1を制した馬は3頭いるが、社台ファーム生産の勝ち馬6頭(デアリングハートが2連覇しているため6頭で7勝)のうちG1馬はエリザベス女王杯と連勝したクイーンズリングしかいない。この辺にも2牧場の勢いの差が現れている気がしてならないが、生産者としてのそれぞれの特徴も表現されているように思えて面白味を覚える。

 ノーザンファームが生産した府中牝馬Sの勝ち馬で最も著名なのは、2000年に勝ったトゥザヴィクトリーではないだろうか。同馬は同期の日本ダービー馬アドマイヤベガと並び、ノーザンファームにおける最初期の活躍馬でもある。

 トゥザヴィクトリーは4角での抜群の手応えと比較して末脚の甘さが拭えず、オークス2着など3歳時から牝馬でもトップクラスの実績馬として知られながらも重賞を勝てずにいた。重賞初制覇を飾ったのは4歳夏のクイーンSであったが、逃げ切り勝ちであった。その前走のマーメイドS(2着)から逃げの手に出るようになったのだが、ハナを切って序盤にアドバンテージを作り出し、終いまで燃焼しつくすことで生来の末の甘さをカバーしたというわけだ。2000年に制した府中牝馬Sは歓喜のクイーンSの次走に当たり、逃げ馬としての彼女の集大成と言える内容であった。

 同期の実力馬フサイチエアデールを抑えて1番人気に支持されたトゥザヴィクトリーは、スタートを良く出て前走通りに逃げを打った。前半1000mは62秒6とドのつくスローの流れになり、直線入口では例によって惚れ惚れするような手応え。そこから鞍上の四位洋文騎手が改修前の東京競馬場の直線の半ばまで仕掛けを遅らせて追い出すと、もう敵はいなかった。上がり3ハロン33秒5の脚でまとめて2着ハイフレンドコードに4馬身差をつける圧勝劇を演じ、重賞連勝をマークした。

 ところが、大一番であるG1エリザベス女王杯では馬体重増も影響して粘りを欠き、4着に敗退。1歳年上の女王ファレノプシスの引き立て役に回った。5歳を迎えた2001年春、フェブラリーS(3着)を叩いて出走したドバイWCでも逃げ脚で2着に粘り込んで世間をアッと言わせたが、彼女のG1勝ちの声はそれまでの逃げ先行策をかなぐり捨てて中団待機の作戦を取った同年秋のエリザベス女王杯を待たねばならなかった。

 トゥザヴィクトリーがノーザンファーム生産馬として初めて府中牝馬Sを制してから19年を経た。2019年の同重賞にはノーザンファーム生産馬が5頭出走する。その中で当時のトゥザヴィクトリーと同じく「クイーンS→府中牝馬S」のローテーションを取るのは、やはり同じ4歳馬である3枠5番のダノングレースだけだ。クイーンSでは4角十分な手応えから直線インを突くも、見事に前が詰まってシンガリ負けを喫したダノングレース。母に伊オークス馬チェリーコレクトを持つという血統背景は、先輩トゥザヴィクトリーのそれに決して引けを取らないが……果たしてどんな結果が待つか。注視したいところだ。

(馬齢表記は新馬齢表記で統一)


レース結果

2019年10月14日東京競馬場11R
アイルランドトロフィー府中牝馬ステークス(G2)

1着8番スカーレットカラー 岩田康誠
2着6番フロンテアクイーン 津村明秀
3着15番ラッキーライラック 石橋脩
本命馬9着5番ダノングレース 三浦皇成

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